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[576] 武倉悠樹「最期の栞」 Name:あなたのSFコンテスト 2014/08/18(月) 18:28 [ 返信 ]
作者名:
武倉悠樹


作品名:
最期の栞


分類:
短編


あらすじ:
 夏。
 高校一年生の青山詩織は、夏休みの期間を利用し、短期のアルバイトを始めようとしていた。
 無類の読書好きだった詩織が選んだバイト先は図書館。
 本に囲まれ、充実した夏休みを目指す詩織がバイト初日に出会ったのは、同じ学生バイトの少年、前島悟。
 二人の邂逅は互いの運命を変える。
 未来のテクノロジー『RR』が生み出す、一夏の淡い青春ラブストーリー“ではない”、『物語』SF(サイエンスフィクション)。


URL:
http://ncode.syosetu.com/n2604cg/


[683] 【ネタバレあり】傲慢という病 Name:朝陽遥 2014/08/28(木) 20:03
 面白かったとか、いい小説だったとか、一言ではちょっと括れないのですが、うん、でもこれはちょっと、読まれてほしい作品でした。

 以下【ネタバレ全開】です。



 この結末を、傲慢や独善に対する報いと読むべきか、それとも不幸な行き違いによる悲劇と読むべきか。ラストを自分の中でどう消化していいか、迷っています。
 彼女が押しつけた善意は、たしかに無分別だったかもしれない。だけど自分の価値観でしかものを推し量れない幼さは、彼女の年齢を思えば、ここまで追い詰められなければならないほどの罪だっただろうかと思うと、やっぱりどうしても後味が悪い。
 最終的にあの選択をした、そうせざるを得なくなるだけの感受性を持った少女であっただけに、なおのことです。彼女の家族がいい人たちとして描かれていることも拍車をかけている。
 だけどこれは、安易なハッピーエンドに流れない、後味の悪い作品でなくてはならなかったのだろうとも思う……

 彼女がこういう結末を迎える可能性を、賢いはずの少年は、死を選ぶ直前にいたってもなお周囲の大人を気遣うことのできた彼は、少しも想像しなかっただろうか、ということを考えてしまいます。
 想像した上で、それでも敢えてこういう選択をするほど、彼女の無理解と無神経さに腹を立てたのか。深く傷ついて、その分だけ苛烈に反撃したと取るべきか。それともあの返信は、彼なりの甘え、あるいは悲鳴、だったのか。そう考えると今度は、もっと違うやり方はできなかったのかなんて、彼の幼さゆえの不寛容と拒絶を責めるのも、違うような気がしてくる……
 そう受け取るなら、やはりこの話は、誰が悪かったというわけでもない巡り合わせの悲劇、なのでしょうか。

 RRというシステムがなかったら、彼はここまで追い詰められただろうか、ということも。
 自分が他者と思いを共有できはしないということを、はっきりと形にしてつきつけられる、あるいはそう錯覚してしまう。人と人の感情の共有、相互理解を助けるためのシステムでありながら、マイノリティに対して他者との差違をより具体的につきつける、残酷なシステム。

 ところで主題からちょっと逸れますが、このRRというシステム、面白いなと思いました。作中では社会におおむね好意的に受け止められているようだけれど、もし本当に実現することがあれば、否定的な意見もかなり出るだろうなとか。
 というのも、わたしがネタバレ忌避派で、かつ初読重視・原作至上主義だからなのですが……本を読んだあとで誰かと感想を言い合ったりするのは好きなのだけれど、まず自分で読んで、自分なりにその小説について感じるのが先であって、その前には他者の意見というバイアスをはさみたくないといいますか。できるだけあらすじも読みたくないくらいで。
 そういう自分にとって、自分がまだ読んだことのない本に向き合うときに、いきなり誰かの読書体験を追体験するのを入り口にするということには、忌避感を覚えてしまうんです。
 自分でものを考えずに他人の意見に流されること、安易にマジョリティに同調してしまうことへの危機感、もあるのかも。

 しかしそういう観点でRRに反発を感じる一方で、自分がその本を読んで何かしらの感想を抱いて、そのあとに他の誰かのまた違った感想を眼にする、あるいは追体験する、というのは、やっぱり面白そうだなと思うんです。もしこの技術が本当に自分の目の前にあったら、試してみたいと、試すのが怖いの真ん中で、ぐらぐら揺れる気がします。

 あと、さらに枝道に逸れますが、電子書籍が主流になったあと、逆に図書館の価値が上がるくだり、面白いなと思いました。現実問題として今後、図書館がどう電書と付き合っていくのか、このごろ考える機会が多いので、興味深いです。

 ……ということで、なんとも散漫な感想になってしまって恐縮なのですが、非常に印象深い作品でした。
 読ませて頂けてよかったです。執筆お疲れさまでした!


[684] 避けてとおれないもの Name:ジザパルーラ 2014/08/28(木) 21:01
 今回最大の問題作かもしれません。

 このコンテストの参加者はみな多かれ少なかれ小説を書く人たちでしょう。あるいは、書かないにしても読むのが好きな人たちでしょう。そうした人たちにむけてこの作品を突きつける勇気にはぼうぜんとするばかりです。

 この作品はわれわれの首根っこをつかんで、ふだんは顔をそむけて見ないようにしているものにむりやり目を向けさせます。物語の結末は、予想していたなかで最悪のものよりもはるかにむごいものでした。

 それでも、私はこの作品を読んだことを後悔しませんし、ほかの人にも読んでみてほしいと思います。


[719] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:VEILCHEN 2014/08/29(金) 22:46
RRという技術の描写を読んで、とても興味深く面白そうと思うと同時に恐ろしさも感じました。

人の心を覗き見たり自分の思考をさらけ出すことへの忌避感が一つ。
それに、この作品を読んだらこう感じるべき、とかこの作品のメッセージの模範的な読み取り方はこう、とか。洗脳じみた方向に使われそうだと思ったのです。

主人公が物語の素晴らしさ、RRの利点ばかりを盲信しているのが明らかに偏った描写だったものでどうなるかと思って毎日楽しみに拝読していました。そして結末に受けた衝撃は先に感想を書かれた方々ときっと同じでしょう。二つの悲劇に胸が痛くなりました。

詩織の考えの浅さも前島くんの絶望も、もう少し人生を重ねたら若かったと笑える類のはずだったのに、と良い大人になってしまった身は思います。二人とも良い子、賢い子であることは確かなのに成長の機会を得られなかったのが残念でならないなあ、と。悲劇的で後味が悪いからこそ印象に残る物語になる、ということもあるのでしょうか。見事に術中にはまってしまっています。

どうでも良いことなのですが:2より。
>ご飯が盛られた茶碗を左手に持ち、箸を持つ右手は、卵焼き、漬物、ほうれん草のおひたしの三点を結ぶ三角形をリズミカルに描いている。
主食を食べていない……!?
(すみません重い雰囲気に耐えられなくなりました)

短編でありながら設定、キャラクター、テーマ全てが練られていて、とても濃い作品でした。上の方で「問題作」と言われているのも納得です。ありがとうございました。

[727] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:拙者 2014/08/30(土) 00:42
拝読いたしました。
面白かったです。
PRという魅力的な設定の小道具が、最後に恐ろしい形で主人公と読者に、ある問いを突き付けてくるクライマックス。
途中から半ば予想はしていても、やはり衝撃的で悲しいものでした。
この物語自体が大変興味深い物語論になっていると思いました。
しかし、結末は気に食わなかったです。
世の中には、世界の突き付けて来る物語の欺瞞性にうんざりするほど自覚的で、どうせ死んでしまうという人生の意味の無さに絶望しながら、
それでもなおノウノウと生きることが出来る人間が、それこそ作者様も含めてゴマンといるのに、なぜ主人公にあんな結末を与えるのか。
(女の子が無為に死ぬ展開が嫌いなだけなので、乱筆お許しください)
「彼」と「彼女」の性差、身体感覚の違いなどを突破点にすれば、虚無的ではあれもう少し違った結末になるのではないかと妄想してしまいました。

勝手な感想失礼しました。

[739] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:キョウノ アリス 2014/08/30(土) 12:23
夏の淡い青春のラブストーリーではないと書かれていたあらすじや題名をサラッと見過ごしていたので最後に受けたのは衝撃でした。二人の若い、若すぎるがゆえの……もう書けません。いろいろと考えさせられてなかなかここに書き込めませんでした。
全く感想になってないですね。すみません。それほど衝撃的なお話でした。途中経過は本当に夏の淡い青春のお話風だっただけに。
いろいろと考えさせられる作品でした。


[745] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:流山晶 2014/08/30(土) 18:14
おそらくは、すごく読書が好きで、物語を書くのがすごく好きな作者様が
ある種、自己否定をするような作品を書いたことに驚愕するとともに、よくぞ書いてくれたと喝采を送りたいです。

同じ小説を読んでも、読者の感想は千差万別であり、ある人にとって快感であっても、別の人にとっては毒であることはあり得ます。

このコンテストに参加している大多数の人は「物語」を楽しめる「勝者」であり、その影には「物語」を楽しめない少数の「敗者」が居ることを知らしめることは重要です。
なにも、この構図は「物語」に限るわけではありません。お酒やアウトドアを楽しめない人がいるのと同じように、テレビや映画やネットが楽しめない人もいるのです。

そして、最後の耽美的なラスト。
物語を楽しめない人の物語を楽しみながら書いたであろう作者の高笑いが聞こえてきそうです。

いやはや、文学的な作品?でした。


[778] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:鳥野 新 2014/09/01(月) 07:20
 いや、峻厳なラストに震えました。でも、この展開は嫌いじゃない、むしろ好きです。
 以下 ネタバレ。




 丁寧に描かれているな、というのが最初の印象でした。詩織とともに日常を追体験しているような繊細な描写についつい詩織を追体験している気分になりました。この丁寧さでRRという魅力的な感覚が味わえるとどんなに面白いかという期待を膨らませていたのですが、一番読みたかったその追体験の描写が抽象的で少なかったのが残念です。もっとその本のストーリーと詩織の最初の感覚が具体的に描かれて、そのストーリーのこんな場面と台詞でこのように違う感覚が湧き上がって彼女を追い詰めたという臨場感があれば、なおさらラストへの怒涛の展開が楽しめたと感じました。
 前島君は、この結末がある程度予測できていたはず。彼女を道連れにしたかったのかなあ。いろいろ考えさせられるお話でした。

[809] RE:武倉悠樹「最期の栞」【ネタバレ注意】 Name:小豆犬 2014/09/01(月) 21:45
「最期の栞」RRしました。これはまた難しい課題を残して終わった作品でした。冒頭からの主人公の丁寧な日常の描写から、一気にラストへの怒涛の流れ。プロローグを見て覚悟はしていましたが、やはりこたえました。
 ラストが強烈で感想の突破口が見あたらなかったので、とりあえず『はちみつ色のユン』をググって眺めていました。本編を見てませんが、「自己の存在する場所」を手に入れることに主題がおかれた映画みたいですね。今度、見てみたいと思います。
 作中においても、上記の通りのストーリーなら、こりゃ彼に見せたらきついですね。作品を映画や本で見るだけなら、自分なりの解釈ができるかもしれません。しかし、感受性が異常な程豊かな彼女が、彼を立ち直らせようと、思いのたけが込められた読書感を共有したならば。きっと彼はその思いに耐え切れなかったでしょうね。彼の遺言の通りです。
 うーん。分からないのは、なぜ彼が彼女にRRを見せたのか。ワザワザ栞まで付けて。作者が、自分の作り出したキャラを死に追いやるって、身を引き裂かれる思いだと思います。出来たら避けてあげたいと。でも、この作者は書ききった。彼の遺言から、彼女の結末は、すでに絶望的であり、決定された物だったみたいですが、あえて、妄想で対抗してみたい。

 ここからは得意の妄想ですが、彼、自分を死に追いやった社会全体に復讐したかったんじゃないかな。このデータ、ネットワーク上に普通に存在するんですよね。RRが広まって、見たら死ぬと噂が広がり、『呪いのデータ』とか呼ばれ。…… なんか見たことある話。妄想しすぎか。頭を冷やそう。でもそう考えたら、彼女の死にも何らかの意味を持たせられそうなんだよな。彼女の死でデータの存在が発覚して消去されれば、又は、今回の事件でRRが廃止されればと。結局、丁寧な心理描写で彼女に感情移入した私としては、彼女の死になんらかの意味を持たせたいだけなのかもしれませんね。
 単純に、彼女なら受け止めてくれるかも、という彼の最後の望みだったのかもしれません。そうだとしたら結果は悲劇的だけど。

 衝撃的なラストでしたが、そこに至るまでの描写が丁寧で、しっかり書き込まれていたからこその衝撃だと思います。短編でありながら、このボリューム感。素晴らしい作品でした。上の方の言う通り、問題作でしたね。←今回の企画では褒め言葉ですよ。
楽しい読書、思考時間でした。


[867] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:平啓 2014/09/02(火) 20:51
拝読いたしました。
古来からの知 の蓄積の象徴として本はありますが、ここでは物語が特化して扱われているのですね。
そこで物語は人を救うことができるか否かで、前島君は救いを見出せなかったと読みました。
一方詩織さんは過去の自己体験から、物語の力を強く信じている。前島君に否定され憤慨しています。

個人的には、物語自体に救いはないと思っています。と言ってしまうと終わってしまうので、二人の齟齬はどこで発生したか考えて見ました。
詩織さんが物語からの救いを見出したのは、まだ自己形成の途中だったのではと思います。子供はまだ自己が確立されていないので、好む他者と自己と同一視しやすいのだそうです。相手と自分を比較することなく、純粋に受け入れたことが、詩織さんは物語が自分に力を与えてくれたと信じたではないしょうか。どなたかが、宗教の物語化(性?)という言葉を使っていましたが、私は逆に物語の宗教化をここに見ます。自己体験のゆえに、万人に通じると信じてしまったと。

しかし本来物語は救いをもたらすものではないと思っています。
ならば何かと問われれば、底流にあるのは祈りだということです。現実にはないけれど、こうありたいという祈り。そこには救い自体はありませんが、目指すべき指標というか、意志の確認があるのではないでしょうか。ほんとうは詩織さんは物語自体に救われたのではなく、自分の意志と回りの彼女を愛する人々によって救われたのだと思います。

では、前島君の悲劇はどこにあるのかと言うと、もちろん物語自体に救いを求めたこともありますが、彼の優秀さが大きな一因だと思うのです。が、それは天才ゆえの苦悩というより、優秀であるがゆえに弱い自分を認めたくなかったのかと。物語の主人公と比較して、悪夢に陥るのがそのためと思います。できない自分が腹立たしいと。彼の救いは自分のプライドが保たれたまま為されるべきもののように感じられました。

年をとると自己と他者の区別がついて登場人物と自分を同化することは無くなり、共感しても登場人物の肩越しの視線で同一化はありません。なので、ここにでてくるRRという機械は、ちょっと気色悪いです。まして、自己の確立していない子供に使用することは、洗脳に近いのでは非常に危惧した次第です。
とは言っても、作中で子供に実際使われているシーンは見たかったなと思っています。

いろいろ長くなりました。
物語の本質についていろいろ考えさせてくださりありがとうございます。


[1109] RE:武倉悠樹「最期の栞」【ネタバレ有】 Name:グルヌイユ 2014/09/05(金) 20:31
この世には、文才に恵まれた者にだけ描くことを許された物語がある。

序盤から、詩織と前島は強く反発し合う。それは二人が共通点を持ちながらも、それぞれが反対の立場に立脚しているからだ。彼らの共通点とは、どちらも感受性豊かで、物語の力を過信していることである。一方は正の方向で、もう一方は負の方向で。
作者は、正反対の二人を対置した上で、RRを用いてその心を結び付ける。そうして読者の前に現出したものは何か? それは絶対値としての物語の力、すなわち美である。
美は無慈悲なものだ。それはわれわれを、ときに救い、ときに壊す。
結末において、詩織は前島の絶望に巻き込まれてしまう。それは外見上、物語の否定で終わっているように見える。しかしその実、汚染された詩織の純真さは、高貴なエロティシズムへと昇華されていることを見逃してはならない。
殉教の神々しさが、図書館の書物の一つ一つに聖遺物のような荘厳さを帯びさせている。物語の原罪を贖うかのように、前島の物語への悲観を、詩織の供儀の死が包み込んでいる。
今や、善悪を超越して物語は、聖処女によって抱かれており、読者である私は、その美に抗う術をもたないのだ。

[1304] 武倉悠樹「最期の栞」論 Name:茶林小一 2014/09/09(火) 00:47
 大変なところに踏み込んできたなあ、というのが初読の感想でした。

 RRと呼ばれる誰かが行った読書体験を追体験できるシステムが開発され、普及している近未来。他にも拡張現実ホログラムといったサイバーっぽい技術が普及しているのが序盤で触れられる。
 序盤の主人公である青山詩織が、アルバイトとして図書館に勤務することになるところからストーリーははじまる。アルバイト先に図書館を選ぶところから想像つくように、詩織は本好きだ。だがその読書傾向は偏っていて、基本的に小説か文学といった「ものがたり」にしか興味を抱かないことが語られる。そんな詩織が、アルバイト先で同年代の、「物語を嫌う」少年と出会う。
 物語を忌避する少年の周囲を掘り下げながら、詩織が何とか少年とコミュニケーションを取ろうと努力する描写で話は進んでゆく。

 はじめに記しておかねばならないのは、この作者、武倉悠樹という方がメタ的な、メタフィクションとまではゆかずとも作中世界の外延部を攻める作風を好んでいるというか得意としていることだ。そして本作にもその要素が多少含まれている。
 それが「物語」によって「物語の是非」を語るという構造だ。
 本作中にはいくつかの実在のフィクションが登場するが、その中に後半の肝となる「はちみつ色のユン」がある。
 はちみつ色のユンは、いわゆる実話をもとにしたフィクション、といわれる類のお話で、これらのお話の例に漏れず、一般的にみて「美談」と受け取られる構造を保持している。そしてこのフィクションをもって、詩織は「物語を嫌悪する」少年に物語の素晴らしさを知ってもらおうとする。
 この構造に、読んだ側がいったいどう感じたか。ここが本作の分水嶺であると私は感じる。
 例えば私は、上記のような実話をもとにしたフィクションの多くに関して、懐疑的なスタンスを持っている。いわゆる「泣ける」などを前面に押し出して宣伝されるフィクションには触手が伸びにくいし、あまり興味が持てない。そういう精神構造を、私は自分の中に持っている。
 逆に、そういった美談を好んで消費する受け手もいる。そういう方々にとっては、作中の詩織はまさに感情移入しやすいキャストであったろう。
 ここで意識が詩織の側に寄ったのか。それとも少年の側に寄ったのかで、ラストの印象は大きく変わるはずだ。
 ラスト。ドラマツルギーとしては、詩織が少年のこころを溶かし、物語の嫌悪という点に関して一歩譲歩する。そしてふたりの交流がはじまる。そういうものが、「正しい」あり方ではあったろう。だが作者は、それらのすべてを否定する。
 今実際に、現実に溢れている「美談」としてのフィクション。そこに関する嫌悪や懐疑。そういうものを作者は本作で提示しているのだ。私はこのラストを、そう受け取った。これをフィクションでやる、という構造がニクいと思う。

 もう一点、大事なことがある。
 本作は、青少年の精神成長過程において「手遅れというものはある」ということをはっきりと提示したことだ。
 これは実は、上記の美談に対する嫌悪と密接に関わっている。
 なぜならば、その価値観を軸に置いた人たちが、詩織が成したようなことを現実としてしてしまう、ということを知っているからだ。
 私を含めた美談を嫌悪する人間の、その感情の多くは、おそらくここからきている。
 それらがときに救いや祈りであることはもちろん知っているが、同時にそれらを押しつけようとする人々や社会環境や空気が、一部の人々を殺し、もしくは災厄を呼び寄せることを知っている人たちだ。身近に経験した人たちだ。その縮図がまさに、本作中で描かれている二人の触れ合いとその結果であろうと感じた。

 瑕疵の多い小説であろうとは思う。特に中盤からの、視点のめまぐるしい変更は、過去作を読んでいる身としては、何でこんなに下手くそになったんだよタケクラー、と叫びたい思いではあった。だが再読するうちに、ああこれは、どの思想に寄り添うべきかを最後まで決められなかったのだな、迷い続けたのだな、と考えることにした。それ以外にちょっと、このひどさは解釈できなかったからだ。

 おそらく作者も思い迷いながら、この一本を書きあげたのだろう。作中の端々から、そういうものが読みとれる。
 力作であり、踏み込みにくいながらもこのテーマで書くならば絶対に踏み込まねばならぬところに踏み込んだ。そんな力作でありました。
 よくぞ書いてくれた。ありがとう。
 


[1431] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:仏師 2014/09/11(木) 20:53
なんとも腹立たしい作品で、なんとも魅力的な作品でした。
前島くんは物語は人の内側より生まれるもので、その物語とい
うものを否定していた。
つまり他人を否定していたのだと思います。
その彼ですら最後には物語を希望とした。
おそらく前島くんは意識していたのかわかりませんが、自分の考えが間違っていることを、心のどこかではわかっていたのでしょう。
それでも自分を受け入れなかった他人の物語を認めることができなかった。
自分の死を選ぶことには否をがないとは思ったのですが、詩織さんを巻き込むのはただの我儘であり、それでは彼を受け入れなかったもの達と一緒ではないかと。
彼女から受けた強い光がドス黒い影を生んだと彼は思っていたのかもしれないが、その考え自体が他人の否定ではなく肯定であるのではないかと。
しかしその考え方は自己否定になってしまうので認められなかった。
詩織さんを死に追い込んだことによって、彼の物語は絶望しか残らないものになってしまった。
しかし彼は絶望こそ希望と信じたかったのであろう。
この一貫した登場人物の思考が、物凄く魅力的だなと感じました。
ブレない登場人物というのは、たとえ凄惨なラストになろうと、どんなに救いがなかろうと、読み手に何かを伝えることができると思います。
まぁ色々書きましたが、ぜーんぶ間違ってたらごめんなさい。
とにかく楽しく読ませていただきました。
以上感想でした。


[1445] 誰かの背中を追う娯楽 Name:栖坂月 2014/09/12(金) 16:19
実に濃い作品でした。衝撃の結末は誰にとっても、良し悪しはともかく鮮烈な印象を残します。彼がもう少し、本当の意味で優秀さを発揮できるほどの大人であったなら、違った結末となっていたかもしれませんが、その仮定は無意味なのでやめておきます。
彼と彼女の顛末に関しては、私が書くまでもなくたくさんの方々が書いてくださっているので、私は少しばかり違ったところを残しておこうかなと思います。
この『RR』という代物が出てきた時、私はあるものを連想しました。プレイ動画、あるいは実況動画と呼ばれるものです。私は昔からゲームを好んでプレイする方でしたので、自然な流れでそういった代物を見る機会を得たのですが、最初はプレイしたことのある作品ばかりを見ていたのですね。ところが、動画を見ることに慣れてくると知らない作品を見るようになりまして、それがまた面白いんですね。もちろん出来不出来に左右されるのは言うまでもないんですが、新しいエンタメとして他人のプレイを覗くというのはアリなのだと、実感させられました。でもね、これってやっぱり危険な側面も持っていると思うのですよ。特定の人間のプレイ一つでその作品の評価が固定されてしまうというのは、むしろ悲しいことなんじゃないかと思うのです。
実際に本を読んでの感想なら、彼がこれほど切れることはなかったと思います。価値や評価、あるいは感情の押し付けという側面を『RR』が持っていたからこそ、この悲劇は起きた、そんな風にも見えました。
もしかしたら、そういった昨今の流れに対する警鐘なのかなとか、身勝手な妄想を膨らませたりもしました。まぁいずれにせよ、作品に引き込まれたことに違いはありませんな。
色々とショッキングですけど、確かになるべく多くの方、特に物語を読むことと書くことを好む人たちにこそ読んでいただきたい作品でした。
それではー


[1448] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:守分結 2014/09/12(金) 18:01
「最期の栞」いろいろ複雑な思いで拝読いたしました。
私は、図書館で子供達に本を読んでいる立場としての感想を申し上げようかと思います。昔から子供に良書をという運動はありますが、近年、絵本や読み聞かせがブームになり、赤ちゃんを抱っこしてお話会に来られるお母様も増えたように思います。その時、大人の側は、いわゆる情操教育に良いから本を読ませたい、どうせ読ませるならば教育的にも良い本を、早く文字も覚えさせたい、というような欲を持っていたりするものです。
その中で、例えば昔話の残酷性が消えていったり、ふわふわと美しい本や、道徳的に正しい本、明るく希望に満ちた毒のない本が、多く選ばれがちであったりもします。
RRのような物がなくても、大人はそうして子供に価値観を押し付けているなあと日頃から思ったりもしていますし、それ自体頭から否定する物ではありませんが、しかしふわふわした正しい物語だけを読んで育ったら、前島君のように現実の壁にぶち当たった時に、物語に対して否定的な感覚を持つ子供が出ることも、また否定できません。
それならば子供にリアリティ満載の救われない物語を与えるのがいいかと言えば、これははっきり否定します。特に幼年期であるならば。
さて、この前島君ですが、彼はとても頭の良い優秀な子供であったこと、それ故に上に書いたような大人の欺瞞にも早くから気づき、物語を嫌悪していったのだろうことは、作中にもある通りですが容易に想像できます。所詮偽物じゃないか、現実はそうじゃないと。
しかしそれ以上に彼を絶望に追いやったのは何だろうと考えると、やはりそれは物語自体ではなく、彼を取り巻く環境そのものだったんじゃないかと思いました。それなのに彼は周囲を憎むよりも物語を憎んだ。物語という虚構を憎むことでようやく精神のバランスを取っていたのではないでしょうか。だからこそ詩織が物語の価値を押し付けようとすることに激しい怒りを抱いたのかなと思いました。憎んできた物語にプラスの価値を認めることは、自分自身の逃げ道を塞ぎ、周囲と相容れない自分を見つめ直さざるを得ない。
前島君は、生きる事よりも物語に絶望し憎むことで保ってきた自分を優先させた。RRを使って自分の絶望を詩織に見せたらどうなるか、頭のいい彼ですから充分に予測できたのではないかと思います。意図的に巻き込んだ最大の理由は何だろうと考えると、一人で抱えたくなかった、わかって欲しかった、一人で逝きたくはなかった…つまりは形を変えた無理心中のように私には思えました。
ただ、彼らの親ほどの年まで生きた自分は、世の中のどうしようもない悲惨さを見聞きした上で、それでもなお子供たちには物語を聞かせたいと思っています。もう詩織ほどその前向きな力を信じてはいませんが、前島君ほど絶望もしていない。力を持つこともあれば何の役にも立たないことを承知の上で、そっと一つの別な可能性もあるかもしれないと夢を見させてくれる物語が、その子供の人生に微かな彩りを添えることを願って。
私の感想は全くの的外れかもしれません。そうだったらすみません。
全く腹立たしいほどに豊かな読書の時間をありがとうございました!!賞賛を込めて!


[1451] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:木居鳥 楽久 2014/09/12(金) 21:47
詩織の日常が丁寧に描かれ、少し影のある少年が出てきて図書館を軸に交流していく。
告白してしまいますと、物語が進むにつれ、どこで追体験するにあたっての負の部分が出てくるかな、とちょっとワクワクしながら読んでいました。
人の記憶を追体験できるという技術は、その技術を思い浮かべた時点で素晴らしいだけのものではないと多分に想像できるものです。
そしたら、まぁ、がっつり。

物語が好きな詩織と嫌いな少年。

結末が結末なだけに、絶望的なまでに『読み方』の反りが合わない。の一言で括っていいものかと迷ってしまいます。

ものすごく皮肉なことですが、物語を憎んでいた悟は、ある意味で、一番物語に没していた。たぶん、詩織より。

RRはそんな、どんな読書体験も現実にしてしまう。
それこそリアルと混同させる技術ってやつなのかもしれないと思いました。

本が心の拠り所になっている、感受性豊かな、そして自分しか世界の中心にいない年頃の少年少女たちがそんなRRを使って、そのむき出しの感受性を交換し合ったらどうなるか。
自分とは相容れない感情に対して、反論させてくれない追体験は、ハートフルボッコ機能満載すぎます。想像するだに怖いです。
心からジャンルホラーはRRしたくないですYO!

近未来を感じつつ、引き締まった物語、読ませていただきました。面白かったです。

[1772] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:ささかま。 HOME 2014/09/21(日) 23:54
物語好きの女の子と物語嫌いな男の子が、物語を通して心を通わせていくハートウォーミングストーリー……になると良いなあと思いながら読んでいたら、最後すんごい衝撃的な結末に。
(あらすじに“ではない”と書かれていたのでちょっと嫌な予感はしていましたが……)
いや、でもこういう結末も大好物です。

RRは使い方によってはとても魅力的な技術のようにも思えますが、使い方を間違えるとそれは単なる一歩的な感情の暴力になってしまう、そして今回のような結末はその暴力の延長線にあったのではないかと思います。
「読むという経験の共有」と言うと聞こえは良いですが、実際は「読み手(作中で言うリーダー)の一方通行な感情の押し付け」というのが今回のRRだったのかなと。
RRのない現代においても、「物語が読者に与える影響」というのはよく言われるお話です。この場合は主に物語→読者という方向を指しますが、読者→他者というのが今回のお話でした(と私は思っていますが違ったらすみません)。自分の読んだ物語について他者に伝えるということに関して、もっと言えば(物語云々以外に関しても含めた)他者への働きかけについて、よく考えさせられるお話でした。

[1958] RE:武倉悠樹「最期の栞」 Name:尚文 2014/09/27(土) 22:51
図書館の独特の雰囲気が味わえた作品でした。
RRという技術にとても興味を持ちました。今の眼鏡型のARシステムを応用すれば、近いものができそうな気がします。
冒頭の雰囲気は、徐々に影をひそめ、読み切る頃には、相当なダークな雰囲気になっていました。作品独特の雰囲気が漂っており、どうにか読み進めることができました。

[2059] 読むこと、感じること Name:天崎剣 HOME 2014/10/01(水) 01:27
感想は人それぞれですからね!
と、表では言いつつも、国語のテストに、「このときの作者の心情を答えよ」「この作品で訴えたかったことは何か」と、決まり切ったような問題を出す社会。感じることはまるで皆一緒、読み方を間違えたら、それは読解力が足りないのだという烙印を押される。
これが、国語が嫌いになっていった経緯でした。

多分こうだろうと思って書くと、違う。だからどうしてそうなるのと、考えても理解できない。
理解しようとしていないのかもしれなかった。でもそれを認めたくはない。
青少年期特有の葛藤というヤツですね。
よく考えれば、本当に受け取る側の問題で、捻くれてたらそりゃ、きちんと真意は読み取れませんわ。
と、今なら冷静に言えるのですけどね。

ただ、テスト問題ではないにしろ、やはり感想というものは難しい。今企画でも、どうしよう、みんな面白いって言ってるけど、あんまり感動しなかった、心動かされなかったって作品もありましたし、逆に、みんな注目してないけど、私はこれが好き! ってのもありました。
感覚は皆同じではない、同じであるハズがない。

RRは魅力的かと言われたら、いいや、と答えます。
当然、考えられる未来ではあるかもしれない。物語というものに、少しでも触れて欲しいなら。
でも、だからといって、追体験という言葉で誤魔化された感情の押しつけは、あってはならないのだと思います。

極端な未来を提示し、それによって起こりうるだろうシナリオを積み重ねていく。
前島君のように頭の切れる少年なら、特にこの追体験を否定するでしょう。だからこそ、悲劇が起きた。

感想を全部読んで、特に茶林さんの美談についての言及が印象に残りました。
正に、ですね。
そうなんですよ。

感動秘話とか、お涙頂戴とか。ああいうので感動できるのは、何も知らないからであって、奥底に何があるのか知ってしまえば、本当の感動などあるのかどうか。誰の目線から語られる、誰のための物語なのか。考えていくと、本当に感動すべき物語は実に少なくて、虚しくなるときがあるわけですよ。
例えば昨今の、戦争に対する描写なんかは、顕著ですよね。当時のことを知らない人がほとんどになったこの世の中で、どれが真実なのか、どれが脚色なのかも判断できにくくなって。戦争に反対し、平和を訴えた行き方をしてきた人たちが、恰も悲劇の主人公となった、みたいな風潮になって。
なんか、RRはそれと、同じように見えたんですよね。
こうあるべき、他は許さない、みたいな。
でも実際、その場にいた人たちから見た目線は違ったはず。その時々、社会情勢や教育方針などで、感想も変わっていくわけです。

受け取る側の生い立ち、考え方、性格なども、もちろん影響を及ぼします。
だから、どんな感想だって、あってしかるべきなわけで。

この作品は、そういった全てのことを全部分かっていて、描かれています。物語の感想に、良いも悪いもない。どんな受け取り方をしたって良い。
だけど、皮肉かな、人とは違う受け取り方をしたら、浮いてしまう。その、浮いた部分が妙に気にかかる。

RRは、実に日本人的思考を持ったシステムだと思いました。
そして、この物語は、前島君側に立つか、詩織側に立つかで全く違うものになる。

難しいものを、書いたなと。
ものすごく面白いかどうかとか、そういう次元じゃなくて。
物書きとして、心に溜まったものを吐き出したような作品でした。


[2069] 「全力で影を演じた作品」 Name:URA 2014/10/02(木) 18:04
読ませて頂きました。
青山母と同じ感覚な私。RR売れないだろうな〜…など思いながら読んでいたら、RRの良さが分からないまま読み終えてしまいました。プロパガンダに使えるな〜と。

そう言う側面も持ち合わせているのが情報ではありますが。私は追体験なら作者がいいな…。そこには最強の誘導力が有るでしょうから。

この作品は結構ドロドロしています。作者様も執筆中にかなり苦労されたのか、若干マイルドに表現されていると感じました。もっと前島君の苦悩を、ラストの決意した詩織の心境をもっと!そんな事を読みながら感じていいました。ただでさえ心臓をすり潰されそうな内容なのに更にか!と他の読者様に反感を買いそうですが。

物凄く勝手な事を言いますと、この作品はSFコンの影を書かれってるのかなと。でわないを強調するところなど、読者の意識を誘導してるな〜と、作中の影の話を読みながら考えていました…。影が濃いと、光はそれだけ強く感じますもんね。
作者様がハッピーエンドの皆頑張れ―とエールを送っているようなそんな感覚でした。

本当に勝手気ままな感想ですが、この感覚RRを通しても通じるかどうかwえ?知りたくない?失礼しましたw

面白かったのは間違いないです。
ではでは〜。

[2100] 感想返信 1 Name:武倉 2014/10/04(土) 17:27
 感想を寄せていただいた皆様へ謝罪と謝辞を。

 まずは、謝罪です。
 この企画に参加され、本作を目に留めていただける少なからぬ人にとって、本作は、おそらく愉快な作品では無いと思っております。
 愉快痛快な作品だけが良い作品、と言うつもりもないですし、この作品が「愉快」ではなくとも「興味深い」作品にはなるはずと言う信念のもと、執筆し、企画に提出させて頂きましたが、その興味関心も極々個人的なものです。

 作劇的な展開が愉快でないのは勿論の事、作品が持つ主題。作者が読者の皆様に問いかけたかった命題も、不愉快と感じる方も少なかろうと思います。

 言ってしまえば、「俺の話を、俺の持っている問題意識を、誰か聞いてくれ!」と言うエゴイスティックな作品を、「R15表記」や「青春ラブストーリー“ではない”」程度の事前注意で、このような多くの方が交流される企画の場に持ち込んだ事。もしかしたら、価値観を否定されている様なお気持ちを抱かれた方も居られるかもしれない事を、ここでお詫びさせていただきます。

 続きまして、御礼を。

 今まで企画に参加させて頂いていた際は、感想への返信は個別にさせて頂いておりまして、今回も特に考えずにその様なスタイルを取らせていただくつもりで居りました。ですが、蓋を開けてみれば、大変喜ばしいことに作者の想定を上回る数多くの感想をお寄せいただき、かつそれらは、前述のように、不親切かつ意地の悪い形で、強引に問をぶつけると言う作風の本作であったにも関わらず、その問を真正面から受け止めた上で、真摯にその問への思いをお聞かせいただける、優しいお言葉の数々でした。
 本当に望外の喜びであります。ありがとうございます。
 
 さて、その様な形で頂いた感想の中にいくつかの共通した疑問が散見されました。そもそも、どのように作品を受け止められるか、また、私自身が皆様に投げかけたつもりである問に、どういった思いを抱かれるか、それは作者の及ぶ所ではございませんが、問を投げかけた者として、「答え」ならずとも、どう言った意図、心情でその問を表したかと言う事は記させていただこうと思います。
 SNS上でも、問だけ投げてみんなを散々悩ませておいて、自分の持ち札はオープンにしないのかと言うご指摘も頂きました。
 曰く「皆で恋バナしようって水を向けておいて、自分の好きな人は明かさないのか」と。
 ですので、全体の解題をし、その後、個別に感想へのお返事、御礼を述べさせていただこうと思っております。

 まず、多くお寄せいただいた前島悟の真意についてです。
 彼には詩織への殺意がありました。明確に。RRを媒介にして、自らの、自殺をすると言う強い意志を使い、詩織の精神をジャックし、死へと誘ったとでも言いましょうか。
 と言うのも、本作のラストを、不運な擦れ違いや一時の気の迷いでああなってしまった程度の温度で終わらせたくなかったという思いがあります。
 物語への絶望を描きたかったのか。それを前面に押し出す反射で、希望を照らしたかったのか。それは間違いなく前者です。
 悟の死も、詩織の死も絶対に揺るぎません。
 ただ、そのラストがどう言った意味を持ちえるのか。この点には私自身明確な答を未だ見つけられずに居ます。

 シンプルに捉えれば、悟は物語の支配する現実に辟易し、この世界を去ろうとしている所で、人の気持ちもわからないおせっかいな奴にずかずか踏み込んでこられて怒り、道連れにしたと言えるかもしれません。
 ただ、物語を憎む、全てが意味に還元され、ありとあらゆる行動や状況がなんかしらの価値に捉え直されてしまうと言う状況をこそ憎んでいた彼が、憎しみや、絶望や、復讐と言ったような、負の方向であるとは言え、ある種物語の典型とも取れる行為によって救われる、ないし満たされることがあるのか、と言う思いも私自身の中にあります。

 この矛盾については別の形でも後ほど触れようと思います。

 とにかく、作劇上、詩織は明確な悪であり、敵である必要があり、彼女は許されてはいけない存在として描こうと思っておりました。
 悟の行為を心中と捉えた感想を寄せていただいた方が何名か居られましたが、それに近いものだと思っています。
 彼が「復讐」と言う、負のベクトルとは言え、ある種の強い「物語」とも言える様な形で自らの幕を閉じることをよしとしたのか。否、でしょう。
 物語を奉ること。物語の中で生まれ、物語に触れながら、意味を学び、物語を価値としていく。息を吸って吐くに等しい不可欠さ、当たり前さで、何らかしらの「意味」に囚われて生きていくという、悟が終ぞまつろう事のできなかった、世界の理に対し、悟に出来たことはあまりにも少ないものでした。
 しかも、今際の際においてすら「なぜ、自分の思いが理解されない」「癪だ」「巻き添えにしてやれ」と言った、彼があれほど嫌っていた「物語」や「意味」を振り切ることができなかった。
 完敗と言って良いと思います。

 彼はその名に反し、それらの問や懊悩に対し、「悟る≒覚る」事が出来なかった。
 皮肉や悲哀や絶望といった、否定的であったり、懐疑的であったりなアレゴリーになりますが、前島と言う姓のキャラクターに「悟」と言う名前を与えた意味もそこに込めました。

 ちなみにですが、知識、思索、筆力、覚悟。突っ込むに足る全てを持ち合わせていなかったが故に、踏み入ることの出来なかった、悟が抱いた様な実存的問題に対しての「宗教」と言う命題があります。書くの怖いし、そもそも書ける自信もないし、と言うチキンな思いと、でも、やっぱどっかで絡めたいと言うネタに対する貧乏根性のせめぎあいの結果、彼はあんな名前で作中に生を受けることとなりました。どうでもいい、楽屋裏ですね。

 
 前述で、後述をお約束した点について。

 これも、何人かの方から感想をいただき、本作を書くにあたって私自身大きく悩んだ点でもあります、『物語の否定と言う「物語」』についてです。
 先ほどの文脈に沿って言い換えるなら『物語を憎んだ悟が「物語」から脱却出来なかった問題」』です。
 これについては、先ほど申し上げた通り、完敗である、と言う結論に尽きると思います。悟も、作者である私もです。
 私が対峙したい、存在を提示したい、それについて考えることについて皆さんのお考えを、お知恵を、聞きたい借りたい、と思っていた「物語」や「「意味」って奴は、 語るに落ちるというか、語った瞬間からその内部構造に囚われてしまうような、そも、そう言う存在だと思います。
 手を取り合っていくことが、どう考えてもベストの選択肢で、引き分けと言えば無視するより他にあらず、組みすれば必死の相手。「苦」であり「死に至る病」であり「大きな物語の終焉」等々の言葉に通底する問題意識です。
 この作品は紛れもなく物語であり、その力や効能の危険さを説いておきながら、自分自身もそれを利用して、誰かに何かを語りかけようとしていると言う「自己矛盾」こそが、この問題の真に厄介なところだと思っています。その自己矛盾をどうするか。
 私が思いつく限りでは、自己矛盾は利用する以外に他ないなと言う結論に至りました。
 白い紙に黒いペンで、白い丸を描くにはどうすれば良いか。答えは、白い円以外を黒く塗りつぶす、です。
 書けない物を書くには、その周縁を、書けないという状況を書く。その事で、書くことはできずとも、読んだ人間に、書けないものの輪郭を提示できるのではないか、それが私の発想であり、悟の企みでもありました。
 ただ、一点、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」ではありませんが、もうちょっと深淵の際まで行けただろうと言うご指摘も頂きました。つまり、問題の輪郭がまだまだぼやけている、と。それについては、至りませんでしたとお答えする以外の術を持ちませんので、今後精進していきたいと思います。

 ちょっと、真面目なテンションを続けすぎたので、少し砕けさせていただいて、RRについて。
 スピンオフ企画にて、個人的にはよく書けたと気に入ってるものの、あまり評価されなくてたいへん寂しい思いをした、フザけたエッセイにも書きましたが、私にとってSFは命題を語る為の手段と言う思いが強く、今回のRRと言うガジェットについても、「人と物語の繋がり」と言う物を顕現させる装置として利用しており、あまり深く突っ込んで言及をしてません。
 なので、RRそのもののディティールであったり、是非であったり、それを巡る言説やエピソード等も作中にはあまり登場しません。そう言った点で物足りなさを抱かせてしまった向きも多くあると思います。これも、ひとえに作者の至らなさです。
 元ネタとしては、作中に少し言及してる点もありますし、お気づきの方もいらっしゃったようですが、ニコニコ動画、ないしその着想になったとひろゆき氏が言及している2ちゃんねるの実況スレをヒントにしています。今も、ニコニコ静画と言うサービスがありますが、それの活字版&発展系ですね。
 作中では、あたかも「権力者が情操教育に良いとされる完全滅菌の物語を子供たちに植え込む」的な管理社会系ディストピアなんかの定番ガジェット的に描いておりますが、まぁ、ニコニコみたいに、他人とコミュニケーション取りながらワイワイ楽しむもんか、と捉えていただければ、嫌悪感も少しは薄れるのではないでしょうか(笑)
 読み手、リーダーと呼ばれる人達が、コンテンツの作者と同等に、もしくはそれを凌ぐ形で人気を持ったり、信奉されたりと言った構図なんかも頭の中なんかにあったりして、これも、歌い手や実況主と言ったニコニコ由来に文化にインスピレーションを受けています。
 本作の主題である、自己と物語の実存的問題とか言う厨二こじらせすぎだろ的な問題とは全く別に、コンテンツの消費が、コンテンツそのものの内容ではなく、それを消費する際に取り巻いている環境やコミュニケーションに左右される。ハイコンテクストカルチャーみたいな興味関心も無きにしも非ずで、そういう点でもRRと言うガジェットを使ってなんか書けるのではないかなとも思ってるのですが、それはそれで機会があれば。

 最後に、これは投票締め切り後、本作のあとがき部分等にも書き足しておこうと思っていた本作の参照項であったり大きく影響を受けた物事のいくつかです。

長谷敏司「あなたのための物語」ハヤカワ文庫 2011/06 
少なくとも、世に広く出る形で存在している物語はすべて呪いを媒介するためと思っていたら、存外そうでもないのかな、と驚きを感じた作品。

東浩紀×佐々木俊尚対談「webで政治は動かせるのか」(現在は公開を停止してますが)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv190468997 
救われると言う事を救いだと感じる事のできない、救われない、救えない人をどう救うかという問題に対する言及があります。

滝本竜彦著 大岩ケンヂ画「NHKにようこそ」全8巻 カドカワ
救われない今ここにいる自分と、救われないフリをしている虚構の中の自分みたいな誰か。二者の圧倒的なまでの乖離を突きつけられる迷作。

武倉悠樹「知恵の実の毒」
http://ncode.syosetu.com/n6832j/
拙作。もう4年も前の作品になりますが、おそらく最期の栞の種的ななにか。

「黒子のバスケ」脅迫事件 被告人の最終意見陳述全文公開
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20140718-00037501/ 
以下6まで。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/
世界の理にまつろえぬ存在という事を強く意識させられる問題。

以上、作品概要に対する作者解題でした。個別の感想への返信はまたあらためて。
いましばらくお時間をいただければと思います。


[2220] 個別返信@ Name:武倉 2014/10/09(木) 23:35
朝陽様

物書きの方々には言わずもがなですが、執筆というのはとても孤独な作業で、出来上がった作品に一言目どんな声を掛けていただけるか非常に緊張するものです。そんな中、一番に頂いた感想で、ここまで丁寧に作品の意を汲み取っていただけた拙作は、我が子ながらとても幸せ者です。
詩織と悟が、少女、少年と呼ばれる幼さを持っていたが故の不幸、と言うご意見は朝陽様以外からも寄せられたご意見で、確かに仰るとおりだと思います。ですが、逆に言えば、彼女らの思いを借りることで真に純粋な形で問題を描けるのではないかと考えました。
後味の悪さこそがこの作品が届けなければいけない読み味だったかと思いますので、無事朝陽様の心に某かを残せたようで一安心です。

RRですが、僕も朝陽さんと同じく本読みですので初めて読む作品でRRを使うことはなかろうなぁと思いますが、例えばお笑い芸人の方のプログラムで面白おかしく本を読んだり、専門的知見を持ってる人の知己をお借りしてなんらかしらの作品にこんな見方ができるのかとそう言った広がりもあるのかなと思っておりますので、やはりあらゆる技術に共通する問題。使う人次第、使い方次第であるのかな、と。

もう一点、読者としての朝陽様は私にとって嬉しいというかありがたいと言うか、他の企画に出した作品中に忍ばせた未来小ネタ、未来における労働の「3tion」の部分に反応して頂いたことを強く覚えているのですが、今回も電子書籍におけるありえるかもしれない未来、みたいな小ネタに触れていただき非常に嬉しかったです。

本当にありがとうございました。



ジザパルーラ様

この企画だからこそ、この企画ならば、そう言う思いで書き上げ皆様に届けと投げた一球でした。
問題作。これ以上ないお褒めの言葉だと思います。願わくば、心の片隅にでも、この作品が問いたかった事を留めていただければ幸いです。
ご高覧いただき本当にありがとうございました。



VEILCHEN様

人の心を見たり、自分の思考をさらけ出したりと言うのが危険で醜いものであり、ですが、しかしその禍々しさ故か人を惹きつける怪しい魅力を持つのもまた事実かなと思います。
そんな光を戯画化したのがRRですが、その醜さの側を誇張した本作が、僭越ながら、なにかしら皆様を惹きつける事が出来、皆様のお心に某かを残せたのであれば、この魅力と危険にあふれる光には意義があるのだと思います。
その意義とどう向き合うのか、答も出さず皆様に問だけ投げるというあるまじき「問題作」ですが、最後まで丁寧にお読みいただき誠にありがとうございました。

あと、食事のシーンは言い訳のしようもありません(後半なら時間に追われ急いでたと言い訳するかもですがそれも出来ず(笑))。お恥ずかしい限りです。こういったつまらないミスを無くして行くことも含め、頂いた感想を励みに精進してまいります。



拙者様

誰かに何かを届けたいと思う時、一番悲しいのは見向きもされないことです。
こう思うんだ!に対し、そうじゃない、こう思う!と食いつきこちらの声に耳を傾けて頂けただけで、まず、こんな幸せなことはありません。ありがとうございます。

一つ、お言葉に思いの丈をぶつけさせていただけるなら、最期の栞はやはり詩織の最期を描くことに意味があったと思ってます。
死を選ぶ程絶望した人間でなければ、自ら死を選ぶ程の絶望を描いてはいけないのであれば、その絶望は誰の目にも触れ事無くただただ闇に消えて行くだけになってしまいます。絶望を描かなければ、その絶望をどうするかは問えない。その考えで、不快な思いを抱かれる人が少なからず居るであろうことには目を瞑り、本作を書きました。
彼女の死が無為に見えてしまったのであれば、ひとえに、僕の問の立て方に説得力がなかった。それを描くに足る筆を持ち得なかった。至らなさの一言に尽きると思います。
そして、性差や身体感覚と言うご意見。正統派のドラマになぞらえボーイ・ミーツ・ガールの形で、それを壊すと言う目的から少女と少年の邂逅を描きましたが、拙者様のおっしゃられるような点には思いが及んでいませんでしたので、大きな視座を頂いた気持ちです。
貴重な意見を今後の研鑽の糧にしてまいります。最後にもう一度、本当に、ありがとうございました。



キョウノアリス様

総括返信でも少し触れましたが、事前の情報をあまり出すこと無く、こんなにいびつな作品を提出した事、重ね重ねお詫び申し上げます。
そんなエゴイスティックな作品にも関わらず最後までお読みいただき、あまつさえ、感想まで寄せて頂く。わがままな作者である私に勿体ないほどの光栄です。ありがとうございました。



流山晶様

高笑い、してませんよ(笑)
感想をいただく度に、照れあり喜びありでニヤニヤはしてましたが。

光あれば、影もある。その影を見て欲しい一心で書き上げ、それを正しく汲みとって頂ける深い懐の読者の方に恵まれ感無量です。
ラストシーンは、無論テーマを際だたせるために凄惨に描きたいと言う思いもあったのですが、それと相まってビジュアル的にもインパクトのある画を喚起してもらおう意識して描いたものだったので、少しは狙った通りの物が描けたのかもしれないと、流山さんの感想を目にし胸をなでおろしました。
本当にありがとうございました。


[2244] 個別返信A Name:武倉 2014/10/13(月) 11:42
鳥野新様

嬉しいお言葉、厳しいお言葉、共に痛み入ります。ありがとうございます。

実は、ご指摘いただいた点は、正直、作品を書いた時から、いえ、書いている最中から瑕疵になるであろうと自覚的だった点で、なればこそ一層耳に痛いお言葉です。
RRを用いた意識の交感は書く前から山場の一つであり、同時に難題であろうと認識してました。ですが、執筆のスケジュール管理が甘く、後半はかなり勢いに任せて書いた所があります。筆のペースを落として密度の濃い文章をしっかり練込みんで行くことから目を背けてしまったと思います。鳥野さんのお言葉で改めて課題を再認識出来ました。鋭いご指摘をムダにしないよう、今後も研鑽してまいります。



小豆犬様

まず、全体の解題で書いた通り、前島悟は青山詩織も明確な殺意を持って殺した、んだと思います。
思う、と言う言い方をしたのは、作者である僕自身の心情はどちらかと言えばわりと悟に近いのですが、僕が書いた文章から、悟の詩織への受け止めてくれるかもという期待が読めた、と読まれた方がおっしゃるのであれば、僕の中に顕在化してないそう言った思いがあるのかもしれないなぁと感じたからです。
そう言った視点は、誰かに読んでもらい意見を貰うことでしか見えてこないものかと思います。貴重なご意見ありがとうございます。

さて、上記の点以外に、小豆犬様のご感想、とても興味深く拝読させていただいた点がございます。
小豆犬様の鋭い妄想でのご指摘の展開です。
と言うのも、この展開、実は、考えていたものだったからです。
そこが、リンクしたことに非常に興奮を覚えましたので、小豆犬さんへの感想返信にかこつけて、少し楽屋裏をば(笑)

別の方への感想返信でも書こうと思っておりますが、この作品の着想の一つに「読んだ人がことごとく自殺する本」と言うフレーズがありました。これはRODと言う作品に、朗読を聞かせることで相手を発狂に陥れる事ができると言う拷問に利用される奇書、と言うネタがあり、それが着想の基です。
そしてそのネタが脳内で熟成し、その方法として、自殺した人間の今際の感情をトレースすることで死へと引き込まれるという「RR」そしてこの作品のラストシーンの原型が生まれました。
その原型を使って考えた筋書きが小豆犬さんの思い描かれてた、『呪いのデータ』に近いものでした。最後、タモリが出てくる感じの例の奴みたいな読み味で。
その後、そのネタを活かすのに適した物語は「世にも奇妙系」なのかと言う悩みがある、以前から考えていた「物語」にまつわる問であれば、ネタとテーマが巧く融合するのではないかとなって、「最期の栞」が生まれたのでした。

同じような発想を持っていただけた方が居らっしゃると言うことにとても、感動してしまいました。丁寧に、作品を受け取って頂いて本当に感謝です。ありがとうございました。



平啓様

丁寧で含蓄のあるお言葉でご感想を賜り、大変恐縮です。

この作品では本≒物語のような形で扱っています。その方が、物書きであり物読みでもある皆様にわかりやすく、インパクトのある形で訴求出来るかなと言う思いでしたが、少し無理矢理なくくり方であったかなと反省しております。

平啓様が文中で引用されている「宗教の物語化(性?)」と言う言葉を私は見かけていないのですが、拙作にまつわる言説の中でどなたかが発言されていた言葉でしょうか?
とかく、私も、物語の宗教化とでも言えるものを問題と捉えて執筆をしておりました。
ここから先は個々人の信念信条に掛かる領域かと思いますので軽挙な発言は出来ないと思うのですが、在り、永らえ、殖えると言うだけでは満足できない、ヒトが失ってしまったレゾンデートルの空虚を埋めるものが物語であり、それは時に激しい副作用をもたらす劇薬である、と言うのが私の見解です。
かと言って、世界が全て悟に寄り添うようなものであったら、社会は成り立たず、それは暗黒であると思います。
救いはどこにあるのか。どこかにあってくれ。まさにそんな祈りを込めて、この作品を書いていたのかもしれないと頂いた感想が沁みました。

皆様のご意見を通して、今一度、物語について考えさせてもらう機会に恵まれました。こちらこそ、大変ありがとうございました。



グルヌイユ様

グルヌイユ様程の高い問題意識とそれをありありと描き出す表現力をお持ちの書き手の方から過分な称揚を賜り、お恥ずかしい限りです。
高い強度の物語が、人を惹きつけてやまないのはなんなのでしょうね。業、と言う奴なのでしょうか。
先に触れておりますが、ラストのシーンには価値観もさることながら、とかく凄絶なインパクトをと苦心した点でありますので、そこに「美」を見出していただき、誠に恐悦です。ありがとうございました。




茶林小一様

覚えて居られますでしょうか、お茶さんとのツイッターでの会話を。
この作品の執筆中、完結させることができたら是非その時の御礼を申し上げようとずっと思っておりました。
今から一年半ほど前だったと記憶しておりますが、「青年よ〜」を書きあげた後、次に書こうと思うものを見つけられず悶々としていた時、お茶さんとやりとりをすることがありました。
「読んだ人がことごとく自殺する本」と言うキーワードを始めとするその時の会話がやけに頭に残っており、この作品を生み出す原動力の一つになっておりました。この場をお借りして御礼を申し上げます。

内容に関しても、時にツイッターでコミュニケーションを交わさせていただき、ある程度「武倉」と言う人間の頭の中をご理解頂いていたとは言え、言いたかったことの隅々まで、しっかり受け止めて頂けたようで、本当に感無量です。
綺麗事だけでないと言う事は皆わかっていて、逆にだからこそフィクションに綺麗事を求めるんだよ、と言う向きのお言葉もあるでしょうが、やはり、ある程度綺麗じゃない物がなければ、人々はわかって居たはずの事を忘れて、綺麗事だけの世界を求め信じそれに毒されていってしまう気がするのです。本音と建前の境界が崩れ盲信がはびこってしまうと、そこは無菌室になってしまい免疫が無くなってしまう。そんな思いがありました。

さて、好意的な見方で繕っていただいた点、視点の変更についてです。

これについては一切の言い訳の言葉を持ちません。言われてから初めて、あぁそんなに酷いのかと思いました。
丁寧で細かな意図で汲んで頂けるような「最期の栞考」を寄せて頂けるほどのお茶さんのご期待に、胸を張って沿うだけの筆力が無かったこと、恥じるばかりです。
正直、今もあまりご指摘に得心が言ってない向きもあるのですが、序盤が詩織視点中心であることと、中盤からそうでなくなる事の不一致が良くないのでしょうか。今まで、あまり複数のキャラクターの視点にまたがる作品を書いたことが無い為、あまりそこを意識したことがありませんでした。展開的にも全てが詩織視点で描くことは少し難しかったと思っているのですが、であるならば、序盤から詩織にだけ視点を絞らずに居ればよかったのでしょうか。
ちゃんとプロットを切らず、見切り発車で書き出したがために全体のバランスと言った事に全くと言っていいほど気を払うことが出来ませんでした。
まだまだとても至らない事を痛感しました。書こうとしたものは評価して頂けたことを励みに精進していきます。お茶さんのお眼鏡に適うよう。

ありがとうございました。



仏師様

悟の物語への妄執。幕の引き方へのエゴ。仰るとおり、彼もまた物語の重力から脱する事ができませんでした。すでに述べている通り、出来て引き分け。問題を認識していなかった詩織に比べ、問題を認識し答が間違っている事に気づいていながら、その答しか提示できなかった分、悟の方に分がない様にも思えます。
同時にそれは作者である私が、そこまでしか考え至らなかったということ同義です。
仏師様の慧眼で察されている通り、認めても認めなくても、どっちにいても理不尽な絶望が待っている。答があるのかも定かで無い問題を提示し、間違っているとわかっている答しか用意できなかった。全くもってエゴイスティックな作品だと我ながら反省しております。
そんな作品にも関わらず、暖かく受け止め、理解をしてくれる、仏師様の様な寛容な読者の方々のお陰で、かろうじてこれは作品と呼べる形を為すことが出来たのだと思います。
仏師様からご感想を賜わり、その内容を噛みしめることで、もう少しこの問題に向き合いつづける勇気を貰いました。
まだまだ、答が出るかはわかりませんし、それよりもっと以前にしっかりと問題を描き皆様にお届け出来るような筆の研鑽が急務ではありますが、そのどちらにも邁進して参ります。
拙い返信で申し訳ありませんが、本当にありがとうございました。



栖坂月様

「RR」への数少ない肯定的な意見をありがとうございます! そうです、新しいエンタメの可能性なんです!
そんな風には描かなかったくせに何を言っているんだとなってしまうかもですが……。
「RR」の醜悪な悪役としての面をクローズアップして書いたので当たり前と言えば当たり前なんですけど、例えば、仰るとおり実況プレイであったり(事実、RRはニコニコの文化を着想の種にしてます)、オーディオコメンタリーであったり、広い意味ではこの企画でも多く見られ今この瞬間私が行っている作者解題の様なものも作品を通じたコミュニケーションで作品の楽しみにさらなる広がりを与えるもので非常に可能性のあるものだと思ってます。
『自分一人では見ることの出来ない世界。知ることの出来ない知識。思いを馳せることの出来ない、どこかの誰かの想い。そういった物に、物語の紡ぎ手である作者の視点や登場人物の生を通して触れることが出来る』と作中、詩織の父の口を借りて書きましたが、そんな「読書」の本質と「RR」の本質は結構近いのではないかなと思っております。翻って、RRの醜悪で恐ろしい面は「読書」にもあるのかもしれません。もちろん「RR」の方がより先鋭化しておりますが。
だからこそ「読書」にせよ「RR」にせよ、どう触れるのか、だと思います。

すこしでもそんな事を思い起こして頂けたのなら、こんな幸せなことはありません。あまつさえ、他の方にも読んで欲しいと言う様なご感想を頂けるとは。もったいなさ過ぎるお言葉です。
感謝しきりです。ありがとうございました。


[2254] 個別返信B Name:武倉 2014/10/18(土) 20:55
守分結様

守分様から頂いた感想を拝読しまして、あぁ、届いたんだなと、嘆息とともに、強い実感がわきました。
ただ、届いたことで終わりではなく、そこから始まりだと思いますので、気合を入れて感想返信をさせていただきます。

まずは、すでに他の方にも申しておりますが、お詫びから入らせていただきます。
この作品を書くにあたって、特に気がかりで、書き上げ世に問うかを最後まで悩んだ点は、読者の方々の中に、特定を信仰を強く抱いている方と、お子さんをお持ちの方が居るであろうという事でした。この作品では徹底した厭世を書いてこそ意味があるのだ、と言う確信はあれど、上記の方々に対しては特に、大きな冒涜になりはしないか、と。
結局、書いてみたい、問うてみたいと言うエゴに勝てず、この作品を発表しました。私もまたある種の物語を他者に強制する側であったと言えます。
詩織が悟の絶望を刺激し殺されたように、私も、悟ではない別の誰かの絶望を刺激してしまったのかもしれません。
にも関わらず、今こうして生きていられるのは、ひとえに読者の方々が寛容で、感受性豊かで、問題に対し真摯に向き合っていただけるような知的な方々だったからに他なりません。
それに甘えて、エゴを押し通したことを今一度、お詫び申し上げます。

さて、本題です。

綺麗な物語を子供に与えること。これを全否定するつもりは、勿論ありません。
ですが、それを言ってしまうと、何事もほどほどが一番、と言う世のすべての事柄における、基本であり極意でもある結論に至り、なんのドラマも生まれませんので(笑)、あの様な作品を書いた次第です。
守分さんから頂いた感ご感想には様々なことを考えさせられたのですが、その中で一番肝要だと感じた部分はこの結末を知った後でも、みなさんは、そして僕も、物語を読むし、書くし、信じるということです。
と言うか、作品内でも言っていることですが、そうでしか人は生きていけないと思っています。
それしか方法が無い。でも、それをすると、少なからず犠牲が出てしまう。でも、それでも、やはりそれを選ばないわけには行かない。そのどうしようもなさ。それを僕は描きたかったのだとご感想を拝読しながら強く再認識しました。
選ぶ結果が同じでも、そこに葛藤が、試行錯誤が、覚悟があれば。そこの認識がなければ少ない犠牲をさらに少なくできると言う発想にもいたらない。

愉快なものではないと思います。自分たちが抱いている幸せが何かの犠牲に塗れているという事を知ると言うのは。でも、そこを一度は通らなければ、僕たちの好きな物語は文字通り全部嘘になってしまう。薄っぺらいものになってしまう。
正直、未だに、この作品、そして幸せにも多くのご意見を頂き、また同時に自分でもそれに関して応えたりしたこの作品の周縁での言説について、複雑な感情を持っており、これだと言う明確なスタンスが決まりきっているわけでもないのですが、この作品を通して、なお物語を肯定する為には「物語を本当の嘘にしてしまわない為に」という事を掲げると言う見解に至りました。

守分さんを始めとして多くの方に豊かな感想をいただけたこと。この作品を書いて良かったと思いました。本当にありがとうございました。




木居鳥 楽久様

木居鳥様の仰る様に、悟は物語に没頭していました。同時にそれは作者である僕の投影なのかもしれません。
物語に期待してしまう。物語に頼ってしまう。そう言う思いがあればこそ、こんな悲劇が生まれてしまうのは確かに皮肉なものだと思います。

他の方へのご返信で、RR、そんなに怖いものばっかりじゃないよ、と言う様な事を何度か書かせていただいたのですが、逆に、もっと、怖いものだよと言う事も言えそうですね。ホラーやミステリーなんかをモチーフにしてRRの技術を描く。木居鳥様のご感想で、ますます想像が膨らみました。

そう言った作品を通して、また物語の違った側面を描ければいいなと、創作意欲をいただきました。ご高覧、ご感想、誠にありがとうございました。



ささかま。様

ハートウォーミング……なりませんでしたね。
むしろ、ハートクーリング、ハートアイシングでした。誤解を招く様な導入をして、申し訳ありませんでした。

意見の表明は暴力になりうる、と言うのは非常に鋭いご指摘かと思います。
弁が立つ人間が、同じだけの弁論能力を持っていない人間に対して、意見をまくし立てると言うのは、例えその意見そのものが論理的に正しくとも、一方的に相手をやり込める暴力ではないかなぁと常々思っているのですが、作中ではそれが、感情と意見の二つで暴走したと言う形ですね。

物語と言う存在を敢えて、悪者としてウイルスのような物に例えるならば、作者も勿論、それを読んだ読者すらも媒介にして広がっていく物と言えるかもしれません。

ささかま。様のご意見を通して、あらためて、こう言った作品を通して人に何かを問うことの意義と、その意義ゆえに慎重にならなければいけないのだと言う事を再確認させていただきました。ありがとうございました。




尚文様

図書館の雰囲気を感じ取って頂けたと言うのはありがたいお言葉です。
情景や、雰囲気、空気感の様なものには地味に気を使っていたので、そこに気づいてもらえるのは感無量です。

僕は理系でも、創造力がある方でもないので、SFに出すガジェットは常に、今この瞬間の技術からあまり掛け離れていない物になってしまいますが、その分、もしかしたらと言うリアリティや興味関心を抱いていただけたのであれば、なんとも怪我の功名です(笑)

ご感想ありがとうございました。



天崎剣様

よく日本は同調圧力の強い社会と言うような論調がありますが、国語のあの問題の聞き方は、それを養うために一役買っているなぁ、と思います。お前がどう思っているかでなく、どう思っていると思われれば正解かを考えろ、と。いわゆる空気読めってやつですね。
こういうふうに書くと、反発も大きかろうと思いますが、人々が互いに了解して寄りかかれる共通幻想があることは、社会の色々なコミュニケーションのコストを著しく下げてくれるので、悪いことばかりでもなかろうと思わなくもないです。

共同幻想は言い方を借りれば、建前、です。

ただ、建前は本音があるからこそ、建前なんです。
建前はもちろん便利な面も数多くある。本音だけの世界はなかなかにストレスフルな世界だと思います。
でも、あくまで建前であって、本音が底にある。その本音と建前の間をどう上手く行き来するか。人と人とが共存していくというのはそういうことだと思います。
そこ忘れんなよ。美談だけで埋め尽くしてんなよ。大事なところ、さぼるなよ。
天崎様のお言葉を借りて、もう一度、この作品と向き合い直し、そう感じました。
意識したつもりはないですが、日本的と言うお言葉にはかなりハッとさせられました。

手前味噌になりますが、難しいもの、と言うのはひしひし感じます。未だに自分の書いた作品のことがわからずウンウンうなされますから。

ただ、天崎様から頂いた様なご感想の数々に背中を押されて、なんとか踏ん張って見つめ直すことができています。

励み、勇気をたくさんいただきました。ご感想ありがとうございます。



URA様

的確なご指摘の数々、大変参考になります。

特に、苦悩や決意をもっと、と言うご意見。
「かなり苦労されたのか、若干マイルドに表現されている」と言う一文に込められたURA様のご気遣い優しさがしみます。
なぜなら、そこはサボったから箇所だからです。
と言うと語弊があるかもですね。いや、語弊でもないか。
手を抜いたというわけではないですが、120%出し切ったかと問われれば俯くより他無い、と言ったところでしょうか。
他にも同様のご感想をいただいてますし、おそらく、皆さんお感じになられてたんだと思います。あえてご指摘をされなかった他の皆様への優しさと、逆にあえてご指摘いただいた方々への優しさにも感謝です。ホント、すいませんでした。精進します。

さておき!
影と言う表現は言い得て妙であり、ありがたいお褒めのお言葉だなと感じました。
ハッピーエンドのエピソードの数々の眩しさがあって、初めてこの作品の存在に意味が与えられる事を考えると他の作者の方々への感謝の念が絶えません。
僕の、ところどころサボった拙作など、SFコンと言う素晴しい企画、優しく慧眼をお持ちの数多の読者の方々、URA様の様な聡明な感想を寄せていただける皆様ありきの寄生虫の様な作品なのです!

さておきさておき!!

すこし自虐が過ぎましたので、最後にもう少し真面目に。

あなたのSFコンの掲示板で頂きました最後の感想で、この作品の立ち位置を総括して頂いたようなURA様の的確なご感想賜り、誠に幸せでした。ありがとうございました。



最後に。

発表が、全体への感想を書いた後だったので、御礼を申し上げることが出来なかったのですが、拙作が特別賞を賜ることが出来ました。
こんなにも歪な作品が、一角の評価をいただけたこと、一にも二にも、作品を受け止めていただいた多くの読者、感想人の方々あってのことかと思います。
投票いただいた方々とも併せまして、この場をお借りして御礼申し上げます。
誠にありがとうございます。
私はもう少し『「物語」を巡る物語』と向き合って行きたいと思っております。

それでは、またどこかで。



  



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