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[1304] 武倉悠樹「最期の栞」論 Name:茶林小一 2014/09/09(火) 00:47
 大変なところに踏み込んできたなあ、というのが初読の感想でした。

 RRと呼ばれる誰かが行った読書体験を追体験できるシステムが開発され、普及している近未来。他にも拡張現実ホログラムといったサイバーっぽい技術が普及しているのが序盤で触れられる。
 序盤の主人公である青山詩織が、アルバイトとして図書館に勤務することになるところからストーリーははじまる。アルバイト先に図書館を選ぶところから想像つくように、詩織は本好きだ。だがその読書傾向は偏っていて、基本的に小説か文学といった「ものがたり」にしか興味を抱かないことが語られる。そんな詩織が、アルバイト先で同年代の、「物語を嫌う」少年と出会う。
 物語を忌避する少年の周囲を掘り下げながら、詩織が何とか少年とコミュニケーションを取ろうと努力する描写で話は進んでゆく。

 はじめに記しておかねばならないのは、この作者、武倉悠樹という方がメタ的な、メタフィクションとまではゆかずとも作中世界の外延部を攻める作風を好んでいるというか得意としていることだ。そして本作にもその要素が多少含まれている。
 それが「物語」によって「物語の是非」を語るという構造だ。
 本作中にはいくつかの実在のフィクションが登場するが、その中に後半の肝となる「はちみつ色のユン」がある。
 はちみつ色のユンは、いわゆる実話をもとにしたフィクション、といわれる類のお話で、これらのお話の例に漏れず、一般的にみて「美談」と受け取られる構造を保持している。そしてこのフィクションをもって、詩織は「物語を嫌悪する」少年に物語の素晴らしさを知ってもらおうとする。
 この構造に、読んだ側がいったいどう感じたか。ここが本作の分水嶺であると私は感じる。
 例えば私は、上記のような実話をもとにしたフィクションの多くに関して、懐疑的なスタンスを持っている。いわゆる「泣ける」などを前面に押し出して宣伝されるフィクションには触手が伸びにくいし、あまり興味が持てない。そういう精神構造を、私は自分の中に持っている。
 逆に、そういった美談を好んで消費する受け手もいる。そういう方々にとっては、作中の詩織はまさに感情移入しやすいキャストであったろう。
 ここで意識が詩織の側に寄ったのか。それとも少年の側に寄ったのかで、ラストの印象は大きく変わるはずだ。
 ラスト。ドラマツルギーとしては、詩織が少年のこころを溶かし、物語の嫌悪という点に関して一歩譲歩する。そしてふたりの交流がはじまる。そういうものが、「正しい」あり方ではあったろう。だが作者は、それらのすべてを否定する。
 今実際に、現実に溢れている「美談」としてのフィクション。そこに関する嫌悪や懐疑。そういうものを作者は本作で提示しているのだ。私はこのラストを、そう受け取った。これをフィクションでやる、という構造がニクいと思う。

 もう一点、大事なことがある。
 本作は、青少年の精神成長過程において「手遅れというものはある」ということをはっきりと提示したことだ。
 これは実は、上記の美談に対する嫌悪と密接に関わっている。
 なぜならば、その価値観を軸に置いた人たちが、詩織が成したようなことを現実としてしてしまう、ということを知っているからだ。
 私を含めた美談を嫌悪する人間の、その感情の多くは、おそらくここからきている。
 それらがときに救いや祈りであることはもちろん知っているが、同時にそれらを押しつけようとする人々や社会環境や空気が、一部の人々を殺し、もしくは災厄を呼び寄せることを知っている人たちだ。身近に経験した人たちだ。その縮図がまさに、本作中で描かれている二人の触れ合いとその結果であろうと感じた。

 瑕疵の多い小説であろうとは思う。特に中盤からの、視点のめまぐるしい変更は、過去作を読んでいる身としては、何でこんなに下手くそになったんだよタケクラー、と叫びたい思いではあった。だが再読するうちに、ああこれは、どの思想に寄り添うべきかを最後まで決められなかったのだな、迷い続けたのだな、と考えることにした。それ以外にちょっと、このひどさは解釈できなかったからだ。

 おそらく作者も思い迷いながら、この一本を書きあげたのだろう。作中の端々から、そういうものが読みとれる。
 力作であり、踏み込みにくいながらもこのテーマで書くならば絶対に踏み込まねばならぬところに踏み込んだ。そんな力作でありました。
 よくぞ書いてくれた。ありがとう。
 



スレッド記事表示 No.576 武倉悠樹「最期の栞」 あなたのSFコンテスト 2014/08/18(月) 18:28 [ 返信 ]
   ┣No.683 【ネタバレあり】傲慢という病 朝陽遥 2014/08/28(木) 20:03
   ┣No.684 避けてとおれないもの ジザパルーラ 2014/08/28(木) 21:01
   ┣No.719 RE:武倉悠樹「最期の栞」 VEILCHEN 2014/08/29(金) 22:46
   ┣No.727 RE:武倉悠樹「最期の栞」 拙者 2014/08/30(土) 00:42
   ┣No.739 RE:武倉悠樹「最期の栞」 キョウノ アリス 2014/08/30(土) 12:23
   ┣No.745 RE:武倉悠樹「最期の栞」 流山晶 2014/08/30(土) 18:14
   ┣No.778 RE:武倉悠樹「最期の栞」 鳥野 新 2014/09/01(月) 07:20
   ┣No.809 RE:武倉悠樹「最期の栞」【ネタバレ注意】 小豆犬 2014/09/01(月) 21:45
   ┣No.867 RE:武倉悠樹「最期の栞」 平啓 2014/09/02(火) 20:51
   ┣No.1109 RE:武倉悠樹「最期の栞」【ネタバレ有】 グルヌイユ 2014/09/05(金) 20:31
   ┣No.1304 武倉悠樹「最期の栞」論 茶林小一 2014/09/09(火) 00:47
   ┣No.1431 RE:武倉悠樹「最期の栞」 仏師 2014/09/11(木) 20:53
   ┣No.1445 誰かの背中を追う娯楽 栖坂月 2014/09/12(金) 16:19
   ┣No.1448 RE:武倉悠樹「最期の栞」 守分結 2014/09/12(金) 18:01
   ┣No.1451 RE:武倉悠樹「最期の栞」 木居鳥 楽久 2014/09/12(金) 21:47
   ┣No.1772 RE:武倉悠樹「最期の栞」 ささかま。 2014/09/21(日) 23:54
   ┣No.1958 RE:武倉悠樹「最期の栞」 尚文 2014/09/27(土) 22:51
   ┣No.2059 読むこと、感じること 天崎剣 2014/10/01(水) 01:27
   ┣No.2069 「全力で影を演じた作品」 URA 2014/10/02(木) 18:04
   ┣No.2100 感想返信 1 武倉 2014/10/04(土) 17:27
   ┣No.2220 個別返信@ 武倉 2014/10/09(木) 23:35
   ┣No.2244 個別返信A 武倉 2014/10/13(月) 11:42
   ┗No.2254 個別返信B 武倉 2014/10/18(土) 20:55

  




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